新潟生まれ新潟在住、ゲームシナリオライター兼小説家。
主に女性向け恋愛ゲームを製作。
小説は恋愛からファンタジー、歴史まで幅広く執筆中。
久しぶりに慎平とデートしようということになった。
最後に会ったのが風俗を始める一週間前だから、もう三週間会っていなかったことになる。
でも、ちっとも嬉しいと思えない。会えなくて寂しかったとか、甘える気にもならない。
(なんでだろう……?)
確かに以前から、慎平にはがっかりさせられてばかりだった。それで諒くんにハマったくらいだから私の慎平に対する期待みたいな、求めるものみたいなものは格段に比重が小さくなっていたことは確かだ。でもそれでも、彼は私の大切な恋人、のはずだった。諒くんにハマろうが風俗を始めようが、慎平への思いは変わらないと思っていた。別口、だと。
慎平に会える日があれば、うきうきして前日から眠れないほどだった。それが今は楽しいとも、幸せだとも思えない。どうしてだろう。
なんだかわけのわからない気持ちのまま、私は当日を迎えた。
繁華街の駅前で待ち合わせ――。
いつもは風俗の出勤で出てくるこの駅で待ち合わせるなんて、落ち着かなかった。すぐそこに事務所があると思うと、自分が仕事ではなくここに立っていることに激しい違和感があった。
「よう、晴菜。どうしたんだよ、ぼーっとして」
「……ああ、ごめん」
疲れているのかもしれない。ここのところ昼間の仕事と風俗で、ろくに睡眠もとっていない。着々と借金額は減り続けているけど、少し頑張りすぎている気もしないでもない。
「なんかお前……化粧変えた?」
「あ、え、うん」
「お前じゃないみたい」
「……そうかな」
「ホテル行こうぜ」
会って二分でそんなことを言う慎平の性急さも、必要とされている気がしてかえって嬉しかったのに。
今は床急ぎをする、身体目的のただの獣にしか思えない。
ホテル街を彷徨いつつ、適当なラブホテルに入る。
(ここもお客さんとよく待ち合わせするところなんだよなあ……)
店の近くにあるホテル街は、常連さんが近くまで来て待ち合わせということも多いある意味なじみの場所だ。だから今の私はどこのホテルがどのくらいの設備で、どのくらいの金額か大体分かってしまっている。もちろん、慎平にはそんなことはおくびにも出さない。ただ、黙って手を引かれる。
手を引かれるままに入り、シャワーを浴びる。
(そっか……セックス、久しぶりだ……)
お客さんとは本番は禁止されているし、それをきちんと守っている。店には内緒にしておいて何とかと、本番行為をちらつかせてくるひともいるが、セックスだけはやっぱり恋人としたかった。
「お前、なんかいつもと違うのな。ホテルに来ても恥ずかしがらなくなったし」
「……」
「倦怠期っつーの? よく分かんねえけど。……ま、久しぶりだったからな」
慎平はそう言ってシャワーを浴びに行った。
お客さんとなら……一緒に入っていちゃいちゃして、洗いっこなんてしてあげて、気の早いひとならそこでもう一回戦とか、しちゃうのにな……。
セックスとまではいかなくても、裸で向き合う者同士としてどうしても恋人とお客さんを比べてしまう。比べるまでもないことなのに、なんで? 風俗嬢で恋人や旦那さんがいる人はいっぱいいるのに、なんで私だけこんなふうに頭の中で比べているんだろう?
疑問符だけがぐるぐる回っている。
布団にくるまりながら考えてと、疲れのためかうとうととしてしまった。
「おい。晴菜。寝てんじゃねーよ」
「……あ、ごめん」
「疲れてんならそもそも会おうとか言うなよな」
「そんな……私は、慎平と久しぶりに会えて……」
そこまで言いかけて、喉が詰まった。
(あれ……? 私、そんなに楽しいと思ってない……?)
さっきから、慎平とお客さんを比べたり、期待してなかったと思っていたり。恋人と逢瀬を過ごすうわついた気持ちはまったくなくて、ただ、ぼーっとされるがままになっていることに気づいた。
(そっか……私……)
「いいや。ヤるぞ」
「うん……」
そのまま、抱かれた。
慎平はイケメンだと思う。私とよく付き合ってくれたものだと思った。実際モテると思う。だから付き合った当初はなんで私と、って半信半疑だった。
彼のセックスはよく言えば男らしく、悪く言えば自分本位だ。無理矢理濡らして、無理矢理入れて、勝手に動いて終わってしまう。前戯も後戯もちゃんとされたことがない。気持ちよくもなかったし、ナカでイッたことなんて一度もなかった。でも、慎平に喜んでもらいたくて、いつも演技していた。
「気持ちいいんだろ? こうされるの、好きだろ?」
(好きじゃないよ……)
乳首を噛まれるのも、バックで激しく突かれるのも痛いだけでちっとも気持ちよくない。キスだって、愛情込めてたっぷりしてもらうのが好きなのにそれすらおざなりだ。
イッたふりをして慎平も果てた。そのままぐうぐう寝てしまう彼を置いて、私はそっとシャワーを浴びて服を身につけ、多めに現金を置いてホテルを先に出た。
仕事があるから先に帰ります、と書き置きを残して。
嘘じゃない、だけど本当でもない。
そのまま私は店に出勤した。
「あれっ? わかなさん、今日おやすみじゃなかったっけ?」
「……えっと、ちょっと用事がなくなりまして、近くを通ったのでせっかくだからと思って出勤したんですけど、今日いいですか?」
「嬉しいなあ、今日ちょうど女の子足りなくて。でも疲れてるみたいだけど……少し眠る? 仮眠取ってから、出勤って形でもいいよ?」
「ありがとうございます。じゃあ、二時間後の出勤っていうことでもいいですか?」
「うん、そうしな。最近頑張ってもらってるし」
慣れて随分くだけた物言いになってきた天野さんとそんな立ち話をしてから、待機室に入る。
待機室の個室は身体を伸ばさなければ仮眠をとることもできるスペースくらいはある。今日は休日の夜とあって、たくさんの女の子が出勤しているようだが、待機している子は少ない。皆出払っているようだった。
(彼氏とエッチするより、店で働いてた方が気持ち良くて、お金も稼げて……私はここにいた方が、楽しいんだ……)
でもその事実は私を打ちのめしはしなかった。やっと沁みてきた感慨みたいなものだった。
『晴菜』から、『わかなさん』になって。
知らない誰かの時間制限付きの恋人になって。
その方が必要とされていると感じるのなんて、よっぽど私は男に縁がなかったと言うべきだろう。
――慎平とホテルで別れてから帰宅するまでのわずかな時間で、私はまた借金完済へ、一歩近づいた。
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第6話 後編は6月25日公開です
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