第6話 後編 - Strawberry Dreamer - いちご文庫

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小説タイトル

作者情報

  • 中野 珠

    新潟生まれ新潟在住、ゲームシナリオライター兼小説家。
    主に女性向け恋愛ゲームを製作。
    小説は恋愛からファンタジー、歴史まで幅広く執筆中。

Strawberry Dreamer

第6話 後編

小説挿絵  店に入って、今日でちょうど一ヶ月が経った。
「わかなさん、痩せたね」
「あ……そうですね」
「何キロ痩せた?」
「三キロちょっと……ですかね」
「ほっそりして、前より綺麗になったね」
 激務のための疲労痩せなのだが、結果的にぽっちゃりめだった私の身体は引き締まり、ウエストも五センチ小さくなっていた。気持ちいいことをしているせいなのか、胸や尻はそれほど痩せていないようだったので以前よりグラマラスな印象を受ける、と店長からも言われた。
 今は常連からの指名だけでなく、写真指名も増えてきていた。口コミも手伝っているらしい。店側から情報誌に掲載させてもらえないかという話もあったが、断った。
(さすがに情報誌は、誰か会社の人が見てるかも知れないし……)
「でもそれ以上は痩せないでね。ちゃんと食べて、ちゃんと寝て」
「はい……そうですね」
「悩み事とかあったら、何でも話して」
「ありがとうございます」
 痩せたから写真も撮り直してもらった。自分で見ても、前よりぐっと女らしくなったと思う。
 お客さんに満足してもらうために、今までめったに買わなかったファッション誌や、女性のセックステクニックの本で勉強もした。
 そんなとき、久しぶりにエンドウさんに呼ばれた。
「わかなさん、一ヶ月ぶりのエンドウさんだよ」
「……はい」
 最初にあったときと同じ、店の近くにある高層ホテルの一室。
 エンドウさんは会うなり私を抱きしめて、『会いたかった』と言ってくれた。
「え……?」
「わかなちゃん、全然最近予約取れないんだもの」
「そ、そうなんですか?」
「知らないの? 天野くん、俺に意地悪してるな」
 そして以前と同じようにお酒を一緒に飲んで、一緒にお風呂に入った。
「仕事には慣れた?」
「はい……おかげさまで」
「わかなちゃんにはずっとそのウブなまんまでいてほしいんだけど、それは無理だよね」
「エンドウさんの前では、私はいつも緊張しますよ。初めてのお客さんだもの」
「わ、男あしらいがうまくなったね。成長しちゃったね」
 泡風呂につかりながら、互いの身体を触り合う。なんとなく、流れでエッチな気分になる。
「ねえ……エンドウさん、私、今日はエンドウさんにいろんなことしてあげたいなあ」
「それは嬉しいな……だけど、俺だってわかなちゃんに今日こそはいろいろしてあげようと思って待ってたんだよ」
 こっちの方が、よっぽど恋人同士みたい……。
 シャワーを浴びてベッドに入り、しばらくプレイしないでいちゃいちゃする。
「すごく、綺麗になったね。でも、ちょっと疲れてるね」
「……はい」
「俺の前では、気使わなくていいからね。そういえばわかなちゃんて、恋人とか旦那さんとかいるの?」
「彼がいますけど……うまくいってないです」
「そっか。じゃあ彼氏の分まで俺が癒してあげる」
 あべこべだ、私がエンドウさんを癒してあげなきゃいけないのに……。
「気持ちよくなりなよ。何にも考えないで、俺に全部任せて」
 エンドウさんの指のテクも、久しぶりだった。
「あ……っ、あん……っ!」
 その夜わたしは初めて、ナカでイッた。
「すっごい、濡れてる……わかなちゃんエロくなっちゃって……」
「やだ……」
 溢れ出た愛液を余さず舐め取られて、クンニでまたイカされた。
 プレイ終了後、別れ際にエンドウさんはこんなことを言った。
「俺、本気でわかなちゃんのこと好きになっちゃいそうだなあ」
「私もですよ、エンドウさん」
「またまた……」
「ふふ」
 たまにはこんな戯言もいいだろう。エンドウさんだって、本気で言っているわけではないことは知っている。イキすぎて疲れた身体を引きずって、事務所に帰る。
(でもエンドウさんみたいなひとが恋人だったら……エッチだけは、とりあえず楽しいだろうな)
 風俗嬢にまで細やかなテクニックを駆使してくれるひとだ、恋人だったらもっと神経を使ってくれるのではないだろうか。
 独りドライバーさんを待ちながら見上げる夜空は、ほんの少し感傷的に見えた。
――それからしばらくして、エンドウさんは私を呼んでくれることが格段に増えた。
 天野さんはこの頃は店の女の子を平等に呼ぶことをやめている、とこっそり教えてくれた。
『わかなちゃんが一番だって気づいちゃったんだね』
 それについて、何もコメントできない。
(嬉しいけど……)
 天野さんは気をつけてね、と釘を刺す。
『エンドウさんのことだからないと思うけど、わかなちゃんは情にほだされて恋人にしようとか、思っちゃだめだよ。エンドウさんはお客さんだから、それを忘れないでね』
(当たり前じゃないですか)
 心の中で返す。
(私がここにいるのは、借金を返すためなんだから)
 いろんなお客さんがいる。
 嫌なお客さんだっていっぱいいる。
 不潔なひと、お風呂に入ろうとしてくれないひと。
 乱暴なひと、無理なプレイを強制してくるひと。
 怖いひと、風俗嬢を道具か何かだと思っているひと。
 男のひとの分だけ、お客さんの種類があって、必ずしもいつも気持ちよくプレイできるとは限らない。
 だからこそ、一部の優良なお客さんは自分にとっても休憩場所というか、止まり木になってくれる。
 自然と甘えられるし、本当の恋人同士のような信頼関係さえ生まれてきていた。
 でも、お客さんはお客さんだ。
 恋人や嫁になってくれと懇願してきたひともいたし、愛人になってくれと金を積んできたひともいた。だからといってうぬぼれるわけではない。嬉しいけど、それまでだ。
 私はお金のためにプレイをするのであって、そのひとが好きだからするのではない、というのが男のひとには分からなくなってしまうことがあるのかもしれない。
 そんな男のひとだから私はそのひとの癒しになりたいと思うし、期限付きだからこそ、その時間内では最良の恋人であろうとする。それまでだ。
 決して楽しいばかりの仕事ではないと気付き始めていたし、昼間の仕事とのダブルワークにもかなり疲れ始めていた。
(でも目標があるから……頑張れる)
 美味しいものを食べに行ったり、えりさんや天野さんと待機中に話したり、可愛い服を買ったりすることが励みになって、三ヶ月経った頃には借金は当初の計画よりもずっと速いペースで返済が進んでいた。


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第7話 前編は7月2日公開です

■注意■

  • ●この小説はすべてフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
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