第7話 後編 - Strawberry Dreamer - いちご文庫

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小説タイトル

作者情報

  • 中野 珠

    新潟生まれ新潟在住、ゲームシナリオライター兼小説家。
    主に女性向け恋愛ゲームを製作。
    小説は恋愛からファンタジー、歴史まで幅広く執筆中。

Strawberry Dreamer

第7話 後編

小説挿絵 ――三日後。
 出勤日の今日、私は待機室ではなく事務所に向かった。
 天野さんが電話対応に追われている。いつものことだ。
「天野さん、お話があります」
「……うん、そうだね。僕もそろそろ答えが聞きたいと思っていたんだ」
 静かに息をついて、はっきり目を見て。
 風俗を始める前の私には、こんな心の余裕さえ、なかった。
 それをくれたのはこのお店。
 ここのひとたちとこの仕事。
「お店、続けさせてください」
「ほんと!?」
 天野さんが飛び上がった。
「ありがとう、わかなさん!」
「……そんなに喜ばれても。いつまで続けるか、分からないですけど」
「じゃあとりあえずは再来月まではいてくれるってことでいい?」
「はい、もう少し、ここにいさせてください。私きっと、この仕事が好きなんだと思います」
 天野さんは早速店長に連絡を取っているみたいだった。
「じゃ、今度雑誌の取材受けてくれるかな」
「いいですよ」
「もちろん、顔出しじゃないから。……それにしても、てっきり辞めると思ってたんだよ、僕は」
 感慨深そうに頷いている。
「どうしてそう思ったんですか?」
「だってね、……やっぱり、わかなさんは普通の女の子だから、いい意味でね。風俗に入ったからって、金遣いがすごく荒くなるわけでもなかったし、勤務態度も最初から今まで全然変わらないし、欠勤も生理のとき以外はほとんどないし……一度、ノロにかかっちゃったときは、あれは災難だったけどね」
「そうでした。ノロウイルス以外は当日欠勤したこと、ないですね」
 あのときばかりは独りでいることがどれだけつらかったか……。
 えりさんが電話をかけてきてくれたのが、本当に嬉しかった。
 同じつらさを味わっている分だけ、仲良くなった嬢との縁は深い。もちろん、縁がなければただの他人だけど。
「じゃあ、とりあえず雑誌のオファーを受けるよ、いいね?」
「はい。いいですよ」
 いつまでいるかは、分からないけど。
 次の目標ができた。
 貯金だ。
 三百万失ったのだから、三百万貯めようと思う。それを貯めたら、またそのとき考える。
 今の時代、貯金三百万じゃ少なすぎるけど、とりあえずそこまで行ってみようと思った。
 足を踏み出す一歩にはちょうどいいだろう。
(でも、疲れたなあ……)
 ここ最近昼間の仕事が少し忙しくて、ほとんど眠っていない。
 待機室でうとうとしていても、ひっきりなしに仕事がやってくる。
(眠い……)
 栄養ドリンクも、精のつく食事も意味がない。
 ただひたすら眠くて、行き帰りの車の中でもほとんど眠っていた。
 プレイの最中だけは何とか持ちこたえたけど……。

「わかなちゃん、そろそろ起きて」
「……っ!」
 エンドウさんの部屋……。
「わ、私、寝ちゃってた……!」
「そうだね。だいぶ疲れてたみたいだね。いいんだよ、寝てても」
「あと時間どれくらい残ってます!?」
「もうアラーム鳴ると思うよ」
「ええ!? なんで起こしてくれなかったんですか?」
「だって……」
 エンドウさんは微笑む。
「眠かったんでしょ? だったら寝てくれてても俺、よかったんだよ」
「違います! そういう意味じゃなくて!」
 詰め寄る私にエンドウさんはぽんぽん、と頭を撫でてきた。
「寝てるわかなちゃんを無理矢理起こしてプレイさせるようなひとだと思う? 俺」
「え……」
「それに今日、俺も疲れてたし、さっきまで一緒に寝てたし」
「でも呼んでくれたのに……」
「いいの。こういう日もあっていいよ。またね」
 そのとき、プレイ終了を知らせるアラームが鳴った。
「いつもわかなちゃんにはお世話になってるし、これくらいお返ししなきゃって思ったんだ。疲れてるところ、呼んじゃって悪かったね」
「い、いいえ! そんなことないです!」
「お金返せとか言わないから。可愛かったよ、寝顔」
「……!」
 恥ずかしさに逃げるように出てきたけど、エンドウさんがあんなふうに笑うところ、初めて見た。
(優しいんだな……)
 申し訳なさに涙が出そうだ。
(今度プレイするときは、絶対サービスしてあげよう。思いっきり気持ちよくさせてあげよう……!)
 そもそも、今回は珍しくエンドウさんは平日の中途半端な時間に、予約も入れずに電話をかけてきたらしい。たまたま身体が空いていたので、カットインするように仕事が入ったけど、いつもはないことだった。
(なんか……あったのかな……)
 夜空の月を見上げながら、車に乗った。
 プレイ時間のほとんどを寝て過ごしてしまったせいか、しっかり眠気は取れていた。
 エンドウさんに感謝だ。
(今度……お菓子でも持って行こう)
 ハロウィンや、クリスマス、お正月など、お客さんには自腹で何かしらお菓子や食べ物を用意はしていたけれど、自分で作るまでは労力は割けなかった。
 でもエンドウさんなら、この恩に報いるためにそれくらいならやってもバチは当たらないだろうと思う。店の一番の常連で、一番お金を使ってくれるひとなんだから。
 曲がりなりにもナンバーワンの私が、それくらいしなくてなんとしよう。
「ただいま帰りましたー」
「あ、お帰りなさい」
「今電話入ったんだけど……」
「はい?」
「エンドウさんと、なにかあったの?」
「えっ……」
 まさか眠ってしまったとは言えなかった。
 天野さんはニコニコ笑いながら、言葉を重ねた。
「すごくよかったって。今日は今までで一番可愛かったって、今電話があったよ」
「……うわー」
 エンドウさんは……何を考えているんだろう


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第8話 前編は7月16日公開です

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