第2話 前編 - Strawberry Dreamer - いちご文庫

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小説タイトル

作者情報

  • 中野 珠

    新潟生まれ新潟在住、ゲームシナリオライター兼小説家。
    主に女性向け恋愛ゲームを製作。
    小説は恋愛からファンタジー、歴史まで幅広く執筆中。

Strawberry Dreamer

第2話 前編

小説挿絵  携帯電話を持つ手が緊張で震えた。
 待ち合わせの男性は、電話で応対してくれた人と同じらしい。
「黒いシャツワンピースで、バッグの色は紺です」
『ああ、分かりました。見えました』
 電話は切れ、チャコールグレーのスーツを着た男性が、穏やかな笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。
「失礼ですが、本日お店の面接予定の方ですか?」
「は、はい」
「よかったです。安心しました。では、早速行きましょうか」
 もう頷くことしかできない。物腰は柔らかいけど、店に入った途端豹変したりはしないだろうか。脅したり、怖がらせたりしないだろうか。風俗ってとにかく、危険なイメージがあるから。
――だとしても、風俗のお店で働くことは既に自分の中で決定事項だった。どっちに転んでも、お金が手に入ると約束してもらえるなら、とりあえず体験入店だけでもしてみるつもりだ。
(でも私、ベッドの上のテクなんてフェラくらいしか知らないよ)
こんなので大丈夫なのか、不安がまた襲ってきた。
いい天気だった。
歩いていると、思わず伸びをしたくなるくらい。
店のスタッフと思われる男性と歩いているのも、ただの散歩だったらどれだけよかったか。導かれるまま大通りを抜け、裏路地に入った。何の変哲もない雑居ビルだ。
「ここです。この三階が、うちの事務所。四階と五階が女の子の待機室になります」
 思っていたよりも綺麗な内装で、雑居ビルと言っても普通のオフィスビルと言われても違和感はない感じだ。エレベーターに乗り、三階を目指す。丁寧な仕草で、私から先に降ろしてくれた。白いドアを開けてもらうと、片隅に花が小さく飾ってあるのが見えた。そのかすかな香りに、ほっとする。男性が先に靴を脱いで上がったので、私もそれに従う。
 歩いてきたせいか、緊張のせいか、喉が渇いていた。心臓がバクバク言っている。うわべでは何ともないつもりでいたけれど、かなり私は怖がっているようだ。
「こちら、どうぞ」
 応接室のようなソファとテーブルがある室内に入ると、男性は私に座るように言った。
「ちょっと待っててくださいね。書類と、お茶持ってきます」
「あ、はい」
 ぱたぱたとスリッパの音をさせて男性は一旦去り、私だけが部屋に残された。
 いろんな思いが頭をめぐる。思い切りたい気持ちと、まだ引き返せるのではないかという気持ち。せめぎ合って、苦しかった。でもやらないより、やって後悔しよう。お金が用意できなくて自己破産なんて、絶対嫌だ。ブラックリストに載らなければいい、十五万円分だけ我慢すればいい、そうすれば、そうすれば。
「お待たせしました。では、面接を始めます。……あ、その前に、お茶どうぞ」
「ありがとうございます……。遠慮なく、いただきます

 ペットボトル入りのよく冷えたお茶が、紙コップと一緒に出された。ためらわずに蓋を開けて、コップに注ぐ。なみなみと注いだお茶を一気に飲み干した。思わずため息が洩れた。
「やっぱり、不安ですか?」
 男性が私の胸中を見抜いて、静かに言った。
「……はい」
「でも、みんなそうですよ」
「……そうなんですか?」
「はい。意気揚々と元気に面接に来る方なんて、ほとんどいませんよ。何かしらお金が必要で、思い詰めていらっしゃいますからね。皆、顔が暗い。それに比べればあなたは、まだ思い切った顔をしているように思いますよ」
(そうなんだ……。私と、同じ……)
 紙コップの軽さをことさらに心もとなく思いながら、手の中でもてあそんでいる。
「最初に自己紹介から失礼しますね。僕は、こういう者です」
 しっかりした名刺を渡された。そっと紙面に目を通す。
“チーフスタッフ 天野義武”
「……天野さん、ですか。よろしくお願いします。私、昼間の仕事の名刺しかないんですけど……」
 天野さんは笑って手を振った。
「要りませんよ。御名前だけ、都合上教えてください」
「本名ですか?」
「今本名だと怖いなら、源氏名でもいいですよ。ただ、契約の際には身分証明書が必要になりますけどね。何とお呼びすればいいですか?」
「あ……じゃあ、藤原、で」
「藤原さんですね。では藤原さん、簡単に説明だけさせてもらいます」
 いずれ働くのだから、本名で構わないと思った。こうなったら今すぐにでも働いて、お金を持って帰りたい。天野さんの変わらない対応の仕方に、徐々に安堵感が湧いてきていた。
「うちはお電話でも申し上げたように、デリヘルです。待機場所で事務所にかかってくる電話を女の子は待ちます。電話がかかってきたら、お客さんの希望の女の子は支度をしてドライバーさんに指定の場所まで連れて行ってもらいます。場所というのは、ビジネスホテルとか、ラブホテルとか、自宅の場合もあります。待ち合わせ場所に着いたらお客さんに電話をして、お部屋に向かいます。プレイの前に事務所に電話して、プレイをして、終わったらまた事務所に電話。それでお仕事が一本、ってなります」
「……プレイ内容をもう一度教えてください」
「本番以外は何でもありです。本番行為は禁止です。お客さんから言われても、お金を積まれても、絶対にやめてくださいね。うちはそういう店じゃないから、と断ってください。逆にセックス以外なら何でもやってオーケーですよ。いわゆる大人のおもちゃみたいなのオプションで揃えているので、藤原さんの得意なやり方でお客さんを満足させてあげてください」
「……分かりました」
「何か他に質問はありますか?」
「性病が怖いっていうイメージがありますけど……」
 風俗で性病をもらってどうのこうの、という話はよくある。お客さんが女の子からもらうこともあるし、逆もあると聞いた。自分がかかるのは嫌だ。どうしたら防げるのだろう。
「月一で検査を受けてもらってます。あと、必ずお客さんと一緒に最初にしてもらう行為は、身体を清潔にすることです。……あ、即尺っていうオプションの場合は別ですけどね」
「即尺?」
「プレイが始まったら即、お客さんにフェラをしてあげることです。この場合はフェラが終わったらすぐに口をきちんと洗浄してもらうことで性病が防げますよ。覚えておいてください。これは衛生面で気になるので、即尺はもちろんオプションで別料金を払ってもらってますからね」
 それから私は、細かい料金プランやオプションの行為について詳しく説明をしてもらった。天野さんの優しい対応は変わらなかったので、体験入店をしてみようという気になった。意思を伝えると、彼はとても嬉しそうに頷いてくれた。
「ありがとうございます。それではこの契約書をよく読んで、サインを。それと、うちで働くための個人情報をいただきます。源氏名以外、嘘は書かないでくださいね

 すべての書類を揃え、私は体験入店をすることに決まった。

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第2話 後編は4月30日公開です

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