新潟生まれ新潟在住、ゲームシナリオライター兼小説家。
主に女性向け恋愛ゲームを製作。
小説は恋愛からファンタジー、歴史まで幅広く執筆中。
「……なにからやればいいですか?」
「ひとつひとつ教えていきます」
まずは、お店に出す仮のプロフィール写真の撮影。顔は出さなくていいらしい。スタジオのようなところに連れて行かれ、クローゼットの中から自由に衣装を選んで着替えるよう指示された。
「ちょっと待っててくださいね。カメラ、取ってきます。その間着替えてください。鍵、かけておいてくださって構いません」
戸惑いながらも洋服を選ぶ。ピンクや赤や白、カラフルなものが多い。一着だけブルーの色目のものがあったが、露出が多いキャミソールワンピースだった。あとは皆、花柄やアニマル柄で、派手だ。どうしようか迷っていると、天野さんがやってきた。
「藤原さん?」
「あ……はい」
「着替えました?」
「……えっと、みんな派手すぎて……」
「入ってもいいですか?」
鍵を開けると、彼は大きなカメラを持って笑顔で立っていた。撮影部屋に入ると、私の不安を察知したようにアドバイスが始まった。
どうもこの人は、『大丈夫』というのが口癖らしい。
「大丈夫ですよ、顔は見せないし、それにお客さんは藤原さんの身体だけを見て指名するわけじゃないんですから。だけど、一番の売りを見せないと。お金、欲しいでしょう? そのためには、自分のアピールポイントみたいなのを知っておいた方がいいんじゃないかと思うんです」
「天野さんから見て、私のアピールポイントって、なんですか?」
思い切って聞いた。
「うん、はっきり言っちゃいますよ。それでもいいですか?」
「お願いします」
「地味な顔立ちと言えば地味ですよ、藤原さんは。でも風俗ずれしてないから、清楚なイメージで売れるんじゃないかな。これからどんどん変わっていけますよ。もちろん、いい意味で。僕が保証します」
男の人に地味だと言われるのには慣れていたので、気にならなかった。でも、その先の言葉にドキッとした。
「変わっていける……?」
「これから藤原さんは、たくさんのお金をもらうことでひとつ心配がなくなって、心に余裕が生まれてきます。女性っていうのは特に心に余裕がないと体調を崩したり、肌や表情にもそれがはっきり出ちゃったりする生きものです。うちの店でどんどんあなたは綺麗になる。なります、絶対に」
「綺麗になる?」
「はい」
天野さんの言葉は、魔法のようだった。
今の私は確かに地味で、自信がなくて、切羽詰まっている。だけどそれがここで変わるのなら……。
結局天野さんが私の服を選ぶ。初々しい清楚イメージ(言われていて恥ずかしい)で売るとのことで、白にブラウンのピンストライプが入ったチュニックワンピースが私の衣装になった。
「靴は脱いで、ソファに腰掛けて。足は斜めに揃えて。そうそう、いい感じです。そうですね、前かがみになってちょっとだけ胸を覗かせるようにして……」
細かいポーズの調整は続く。今撮影される一枚は、お客さんへアピールできる私の唯一の武器だ。正式な写真は後日撮ると言っていたけれど、天野さんも私も真剣そのものだった。当たり前だ、ふざけてやれる仕事なんてない。いつだって真剣勝負。
「はい、終了。これあとでできたら見せますからね。細かい補正とか入れて、お店のホームページに載せます。体験入店の準備をしましょうか。今三時だから、出勤は五時ってことでいいですか?」
「それでお願いします」
ちょっと緊張してくる。それまで、事務所でプレイの説明を受ける。
「講習はいります?」
「あ、い、いいです」
「彼氏とか、いたんですよね? いろいろしてあげてました?」
「フェラとかシックスナインとかは……」
「大丈夫そうですね。おもちゃは?」
おもちゃか。使ったことはないけれど、前々から興味があった。慎平とも諒くんとのセックスもあんまりよくなかったからだ。ひとりエッチをしたことがある女性は珍しくないというから、やってみようかとも思っていた。
「興味はあったんですけど、機会がなくて」
「そうですか。うちで貸し出してるのは電マとローターです。電マって知ってます?」
「AVでしたか見たことないですけど」
「これにしてもローターにしても、当てて楽しむものですからね。突っ込んだりしたらいけないですよ。でももし突っ込みたいっていうお客さんがいたら、ゴム使って入れてもらってくださいね
「は……はあ」
困惑した声を出してしまった私に、天野さんは苦笑した。恥ずかしくてうつむいてしまう。
「大丈夫、もちろん、これもオプションです。電マは初めての人はちょっと刺激がきついかもしれないから、そのことをちゃんと伝えてください。きっと、初々しいって言って喜びます、お客さんは」
イソジンとグリースという消毒液での消毒の仕方を最後に教えてもらって、それから待機室へ。
「いよいよ出勤ですね。その前に……源氏名どうします?」
「えーと……わかな、とかでもいいですか」
咄嗟に出てきた名前を口にする。女優さんにあやかるわけではないけれど、初々しいと言われたからうぬぼれてみた。
「わかなさん、いいんじゃないですか。可愛らしい名前で。じゃあ、わかなさん、これからよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
一礼して姿勢を元に戻すと、背筋がぴっと伸びて、息が詰まるほどの緊迫感が走る。ひととおりの説明と作業が終わったので、いよいよ待機ということになる。時刻は四時を少し回っていた。五時から出勤ということならば、早ければ三十分後、つまり五時半には実際に仕事に入れるという。
「わかなさん、少しここで待っててください」
待機室の入口で立たされて、個室の奥の方へ天野さんは行ってしまった。何事だろうと思ってソワソワしていると、女性を連れて戻ってきた。
訳も分からず、とりあえず挨拶をする。
「初めまして、わかなです。これからお世話になります
「……初めまして、わかなさん」
このひとは……誰だろう?
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第3話 前編は5月7日公開です
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