第5話 前編 - Strawberry Dreamer - いちご文庫

全国版

掲載店舗3,990

女性会員126,285

いちごなびからの応募でもらえる、入店応援金15,000円
小説タイトル

作者情報

  • 中野 珠

    新潟生まれ新潟在住、ゲームシナリオライター兼小説家。
    主に女性向け恋愛ゲームを製作。
    小説は恋愛からファンタジー、歴史まで幅広く執筆中。

Strawberry Dreamer

第5話 前編

小説挿絵 ――今日は休日。
 慎平からは何の連絡もない。一応彼氏のはずなのに、最近はめっきりメールも電話も減った。
(だから私はホストにハマったりなんかしたんだけど……)
 もともと忙しい慎平で埋められない心の穴をホストの諒くんで埋めていたのだが、諒くんもいなくなってしまった今の私には、慎平か、風俗か、昼間の仕事か、のどれかしかない。慎平はひどく嫉妬深い性格だから、私が他の友達と遊ぶことを嫌っていた。自分が忙しくて私と会う機会がなくても、だ。諒くんのことはとりあえず、仕事で自分も忙しいからと取り繕ってあったから最後までバレなかったけど。
(寂しいなあ……)
 でも今の自分は寂しいとか、苦しいとか言っている場合ではないと分かっている。
(借金、返さなきゃ。慎平のことは、そのあとだ)
 どうせ何もせずにこうして休日の時間が過ぎていくなら、出勤した方が寂しくもないしお金も手に入るだろう。躊躇せずに店に電話した。天野さんが出て、相変わらず柔らかい物腰で疲れていないかと聞いてくれた。
「全然疲れてないです。今日……もしだったら、出勤してもいいですか?」
『ほんとですか。嬉しいですね。来られるなら、ぜひ』
 店長も喜んでいたと言ってくれ、ついでにちょうど今日カメラマンが来るから、来られるなら早めに来てほしいとのこと。できるだけ早く出勤すると告げ、電話を切った。
(そういえば……)
 昨日のことを思い出す。メイク道具も、服も揃えなくちゃ。いつまでも店のものを借りたり他人の迷惑になったりしていてはいけないだろう。とりあえず仕度をして出て、近所のドラッグストアで安くて可愛い色のコスメをたくさん買い込んだ。ついで繁華街に出て、駅に入っているノーブランドのショップで服を買った。その場で着替えてお手洗いでメイクをし、そのまま店へ向かうと、ばったり天野さんに会った。
「あれ! わかなさん?」
「おはようございます。どうしたんですか?」
「ええ、今店の備品を買って帰るところなんです。それにしても、見違えましたよ」
「え……?」
 見違えたというのはどういう意味だろうと内心狼狽していると、天野さんはにっこり笑った。
「すごく綺麗になりましたね」
「そ、そうですかね」
「一晩で女の人ってこうも変わるものなんですね。僕はいろんな女性を見てきましたが、綺麗度っていうんですかね、わかなさんが今までで一番短期間で綺麗になったひとですね。この分だと、もっともっと綺麗になるでしょうね、わかなさん」
 惜しみない賛辞を贈られて、どきどきする。ただ服を変えて、メイクをきちんとしただけなのに。それから変わったことって、なんだろうと考える。
(お金に不自由しなくなったこと……かな)
 正確には、不自由しなくなると約束されたこと、だけど。
 天野さんは私を連れて店に入ると、待機室でとりあえず待っているように言った。
「カメラマンさんが来るまで、ちょっと待っててくださいね」
「それまで何かやることってありますか?」
「特にないですから、リラックスして撮影に臨んでください」
 私は指示に従って待機室に入る。昼まだ早い今の時間帯は出勤しているひと自体が少ないようだ。
「おはよ」
「あ……おはようございます」
 声をかけてきてくれたのは、えりさんだった。煙草をふかしながら、えりさんは備品の補充をしていた。
「こういうのって誰もやってくれないからね。自分で気がついたときにこまめにやっておくといいよ」
 ローションとか、ゴムとか、おもちゃの電池とか……。消耗品はたくさんあるし、うっかりなくしてしまうようなこまごまとした小物も多い。
「いざっていうときに『ない!』ってなったら、お客さんとの雰囲気もぶち壊しだからさ」
「そうですね……」
 ふたりしてしばらく、バッグの中の備品を詰める作業に終始した。
「わかなさん、います?」
「はい」
 天野さんが私を呼びに来た。えりさんは、店でいつ何があるかも隅々まで知っているような顔をしている。
「今日撮影だってね。いってらっしゃい」
「ありがとうございます。いってきます」
 えりさんはいつも通りのスローな雰囲気を保ったまま、煙草を持った手を軽く振って私を見送ってくれた。
――撮影室。
「じゃあ僕はこれで。あとはカメラマンさんに任せてね、わかなさん」
「はい、よろしくお願いします」
「今の服でいいから、ちょっとブラウスのボタン外して、胸見せて」
「あ……はい」
 下着がチラ見えするくらいまでボタンを外し、次の指示を待つ。
「ソファに横座りして、ちょっとリラックスした感じで、誘ってますよって顔して」
「えっと……」
「上目遣いで、そうそう。可愛い可愛い。ちょっと脚組んでみようか」
 戸惑いながらもうまく乗せられて、自分でもかなり大胆なポーズを取った写真になったと思う。そのまま何枚か撮られたものが正式なお店用の写真になるらしい。
「はい、お疲れ様。可愛かったけど、これもっとお店に出ると可愛くなる魔法をかけてあげるからね」
「ありがとうございました」
 事務所に撮影が終わったことを報告しに行くと、天野さんが電話の応対に追われていた。
やっと電話の音が鳴りやむ。
「わかなさん、お仕事。フリーで、九十分。今すぐに行くから。頑張って!」
「はい!」
 背筋がしゃきっと伸びる気がした。仕事、と言われると緊張と一緒に『必要とされている』ような使命感が襲ってくる。
(私は、ここにいていいんだ……)
 諒くんでも慎平でもない、知らない誰か。
 ほんの短い間だけど、私はそのひとたちの恋人になる。
 その間だけでも、私はそのひとに『必要とされる』。
 もしかしたら今一番私が欲しかったのは、そういう感覚だったのかもしれない。
(だから……頑張れる、きっと)
「わかなさん! もう外でドライバーさん待ってるから!」
「はい!」
 急いで身支度を整えて、化粧をもう一度チェックして車に乗り込む。
「いってらっしゃい! 昨日よりずっと可愛いよ!」
 ドライバーさんにも励まされて、ビジネスホテルに向かう。
(フリーか……常連さんじゃないんだ……)
 初めてのフリーだ。昨日は、常連さんがふたり、それだけだったから。昨日の通りに部屋をノックすると、自分と同じくらいの年齢のサラリーマン風の男性がドアを開けた。


------------
第5話 後編は6月11日公開です

■注意■

  • ●この小説はすべてフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
  • ●この小説の著作権は「いちごなび」にあり、無断転載(部分引用含む)は禁止です。
  • ●無断転載を行った場合、著作権法の違反となります。
大好評開催中!入店応援金として最大15,000円がいちごなびからもらえる!

【大好評開催中!】いちごなびから最大15,000円もらえるキャンペーン!