アンダーグラウンドシティ・ベルリン在住。
世界各地から集まった変人たちに囲まれ穏やかでない毎日のなか執筆。小説のほか、性に対してオープンすぎるこの街で繰り広げられるセックスパーティやセックスワークショップなどへの潜入取材依頼も受付中。
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みなさん、初めまして!
わたし、佳子っていいます!
素敵な旦那様、国井泰司さんと結婚して今は専業主婦やってま~す☆ 今どき専業主婦って憧れらしいですね?! ええ、はい。養ってもらってるってことは、それだけ旦那様に経済力があるってことですからー☆ うふふ。
そんなわたしは中肉中背、髪は肩をちょっと過ぎるくらいの長さで暗めの茶色。昔からよくもち肌だね、って言われてました! 似ている芸能人はそうだなあー、国生さゆりをもうちょっと大人しくした感じ? とか言われまーす!
……えっ?
年?
と、年は……よ、42歳でぇーす……。
はい、今年……厄年です……。
……それも本厄。
もー! 去年、大殺界終わったばっかりなのに今度は厄年! 立て続けヤメて!! もう若くない! 体力ない! もち肌もすっかりひび割れた鏡餅状態よ!
こんなのいやぁぁぁ~……。
「わっ! 夢か!!」
佳子はいつものお昼のワイドショーを見ながらいつの間にかソファでうとうとしていたのだった。
「はあ~……」
大きなため息をつく。
アイドルグループに新メンバーが加入するとかで、女の子の自己紹介コーナーにつられておかしな夢を見ていたのだ。
しかも途中から悪夢、というか現実。
「なーにが、佳子っでーす!、だ。もう名前からしておばさんだし。熟女グループかよ! せめて夢なら夢らしく完全に若返らせてアイドルでも何でもやらせてよね!!」
ひとり悪態を吐く佳子。
つまらないテレビを消し、再びソファに寝そべる。
(わたし、何やってんだろ……)
クッションを抱き締めて再びまぶたを閉じる。
がらんとした部屋。
別に広い家に住んでる訳じゃない。ふつうの2LDKのマンションだ。
がらんとしているのは、娘も、夫も……帰って来ないから。
高校を卒業したばかりの娘は今は予備校生、という名のフリーターで、朝から晩まで遊び回っている。もちろん心配だけど、遊びたい盛りなのは理解してるつもり。
夫の泰司は…帰宅したとしても週に1回、良くて2回。
もちろん夜の生活だってずっとない。
仕事が忙しいのは本当だろう。
東大出のエリートなんだから。
泰司が働いてくれているお陰でわたしは生活できてるんだから。
でも……。
浮気しているのだろうか、もしかして既に外に家庭があるのだろうか……。
心もカラダも乾くってこういうことかな、毎晩鏡を見て思う。
”乾く”って文学的な表現じゃなくて、リアルにカラダの状態を表してるんだなって。
刺激が欲しい、昔みたいに……。
1日に何度もセックスして……その度にシーツを変えなきゃいけないくらい濡れていたわたし……。
『佳子、お前もうビチョビチョだよ、ホラ』
もう充分すぎるほど濡れに濡れてる。
下半身全部がヌルヌルになっちゃってるみたい。
でも泰司はわたしのクリトリスを指で、舌で刺激し続けて、あぁんもう限界イキそう! ……って、快感で頭が真っ白になったと思ったら彼の固くて太いペニスがわたしのアソコに……。
そんなのずっとない!
毎日、毎日、同じことの繰り返しだ。
帰って来ない夫、喋らない娘。
時間だけが膨大にある。
(ドキドキしたのっていつだっけ……)
思い出せないくらい前だ。
「わたしだって……わたしだって……また……」
「その願い叶えてあげるよ」
「えっ?!」
佳子はその声にがばりとソファから起き上がった。
目の前には、2本脚で立っているピンク色の……トイプードル?
「ぎゃーー!!」
佳子は思わずクッションを”それ”に投げつけた。
「ひゃ!!」
するとその生き物は上半身をねじりうまくクッションを避けた。
「きゃーーーー! お化け~~~~!!」
「待って! 落ち着いて! ボクお化けじゃないよ!」
短い手(前足?)をばたばたさせて必死に弁明するピンクのトイプードル。
「いやーーーー! 喋ってる~~~~!!」
パニック状態の佳子。
そりゃそうである。
どこからともなく目の前に現われた犬(?)がピンク色で直立二足歩行で、おまけに”日本語”を流暢に喋っているのである。
「だ、だ、誰よー!? っていうかナニ~?!」
しかし佳子は腰が抜けたのか立ち上がることも逃げ出すこともできない。
「誰か助けてー!」
叫んでも家には誰もいない。
「佳子しゃん! 落ち着いて! ボクはフーゾクの国からやって来た大使でしゅ!」
「ふ、ふーぞく?」
佳子はその言葉につい我に返った。
何を隠そう佳子は若かりし20代の頃、風俗嬢の経験があるのだった。しかも店でも常にトップ3に入る人気風俗嬢だったのである。
「そうでしゅ! ボクは大使のトゥインキーって言いま~っしゅ!」
そう言ってそのトイプードルらしき生き物は短い両手を頬に添えて決めポーズをしてみせた。
「テヘ☆」
「……か、かわいい」
思わずきゅんとする佳子。
腐っても女子。
もとい、大人女子。
「これぞまさに必殺☆テヘペロ!」
トゥインキーの黒目がちな瞳がキラリと光る。
「あんた……自分の魅せ方解ってるわね……」
「……」
だてに42年生きているわけではない佳子なのである。
冷静になった佳子はソファに座り直しトゥインキーに尋ねる。
「で、トゥインキーだっけ? わたしにいったい何の用?」
「トゥインキーは長いんで略して”キー”って呼んで下しゃい!」
そう言いながらキーは佳子の隣にちょこんと座った。
「キーね、うん分かった。そうだ、何か飲む?」
主婦の条件反射で立ち上がる佳子。
「じゃ、ボクはラテマキアートできれば豆乳で、あとキャラメルクランチバーお願いしましゅ」
「ねえよ!」
かぶせ気味に突っ込む佳子。
「えぇ~、ないんでしゅかーー?」
ソファの背もたれにあごを載せて不機嫌そうな表情を見せるキー。
「え~じゃあ~百歩譲ってキャラメルクランチバーは諦めてぇーー、コーヒーフラペチーノとぉ~バニラカップケーキひとつ」
「OLか!」
「OLではありません。大使でしゅ」
「お黙り」
ぷーっ、とピンクのほっぺたを膨らますキーを横目で見つつキッチンの戸棚を開ける。
「うちにあるのは緑茶、ほうじ茶、梅昆布茶!さ、どれがいいの?」
「どんな3択でしゅか……。さすが42さ……」
「うっさい! じゃアンタ水! しかも水道水! ほれ!」
ファンシーな見た目とは裏腹に口はけっこう悪いキー。
ムカついた佳子はグラスに水道水を注いでソファの前のテーブルにどん! と置いた。
「しょんな~! ボクはボルビックしか飲まないって決めてるんでしゅ~!」
「わたくしは新茶の玉露入り緑茶を頂きますわ! ほほほ」
「ぷーーー!」
キーをやり込めたところで満足した佳子は、お盆に2つ緑茶とおせんべいを載せてテーブルへ運ぶのだった。
「それで、何でキーはわたしのところへ来たの?」
キーは文句を言っていたわりに美味しそうに緑茶を飲み、おせんべいをつまんでいる。しっぽがぱたぱた揺れているのがカワイイ。
(この子いったい何者なのかしら……)
「佳子しゃん」
「ん?」
キーは湯のみをテーブルに置くと、佳子の疑問を見透かしたかのように話し始めた。
「ボクは”大事な忘れ物”をした女の子のもとにやって来るんでしゅ」
「……大事な忘れ物?…女の子ってヤダ、わたしもう……」
自虐的になるのにも、もう慣れている。
「その大事な忘れ物を取り戻させてあげる代わりに、ボクは女の子が絶頂で得たパワーを”フーゾクの国”に転送してるんでしゅ。それがボクたちの国のエネルギー源なんでしゅ」
「ぜ、絶頂で得たパワー?エネルギー源?」
何だか良く分からない。
「刺激のない佳子しゃんの毎日を変えてあげます」
(……!)
全部、見抜かれているみたいだ。
「じゃっじゃーん! 魔法のピンクロータ~!」
キーがそう言うとボムッと音がして手品のようにピンクローターが現われた。
「コレで絶頂を迎えると”マジカル☆フ~ゾク嬢 アンジェり~な”に変身できるんでしゅ!」
「えっ? マジカルふーぞく? な、何それ?」
「いーからいーから! 早速1回イッてみなよ!」
キーはしっぽをぱたぱた振りながら、ぐいぐいそのローターを押し付けてくる。
「え、ちょっ、」
予想外の展開に戸惑う佳子。
「騙されたと思って! ね♡」
「あ、う……うん」
(……まあ……いっかぁ)
えらく積極的なキーの態度と”魔法”のピンクローターに少し下半身が疼いた佳子はトライすることにした。
(減るもんじゃないしね!)
それにキーから渡されたローターは、少女マンガの変身アイテムみたいでけっこうカワイイ。
「わたし寝室行くから覗かないでねっ!」
「大丈夫、そーいう趣味はないでしゅ」
「あ、っそ」
キーをリビングに残し寝室のドアを閉める。
(ん? ていうかコレどーやって使うんだろう?)
スイッチが見当たらない。
とにかくベッドへ腰掛けて、そっとスカートをたくし上げる佳子。
(……団地妻の昼下がりのお楽しみってヤツね)
白いレースの下着の上から中指で割れ目をなぞる。
「あん……」
すると、突然ヴィーン……という音がして勝手にローターが動き始めた!
そしてそれは佳子のアソコを下着の上から責め始めた。
(あぁ……ん! やだ、ローターってこんなに気持ち良かったっけ……!)
これが”魔法”の力なのだろうか?
「あああ……ん……もっと!」
佳子は自ら下着を脱ぎ捨てた。
強弱をつけ自由自在に佳子のクリトリスを刺激するローター。
(あん、あん、あああ……イキそう……! はぁ~んもうダメー!)
痺れるような快感がクリトリスから全身へビリビリと広がっていく。
「あ~~~ん! マジカルぅ~☆」
絶頂と共に思わず口をついて出た言葉、それが何なのか佳子自身にも意味が分からなかった。
ふとベッド脇の姿見を見るとそこに映っていたのは……。
「うっそーーーー?!」
白いひらひらしたミニワンピースのコスチューム、ガーターベルトにニーハイ、ハイヒール…髪にはキーの耳についていたものと同じアクセサリーがついている。
「えっ、何コレ?! わたし変身しちゃった!」
上気した頬に皺はなく、全身の肌はハリがあってなおかつ柔らかなもち肌……。
そう、20歳の頃に戻ったようだ!
「いや、完全にそれ以上よ!」
タレ気味だった胸は、Eカップ? いやFカップはあるだろうか、しかもこの大きさでも重力に負けず、つんと上を向いて佳子が動くたびにぷるぷると揺れる。反対にウエストはきゅっとひきしまり、胸から柔らかなカーブを描く。
もちろん下腹はぺったんこで、すらりと伸びた手足はまるでモデルのようだ。
「キー! ちょっとキーーー!!」
佳子は寝室を飛び出す。
「佳子しゃん!」
「キー! 見て! よく分かんないけどわたし、イったと思ったら変身してたの!」
「佳子しゃん、それが魔法のピンクローターの力! 佳子しゃんは今”マジカル☆フ~ゾク嬢アンジェり~な”なんでしゅよ!」
「 マジカル☆フ~ゾク嬢アンジェり~な?!」
「店長には話をつけてありましゅ! さっ! 行きましゅよ!」
「て、店長って? 話って何よ?」
「いーからいーから!」
「ちょっとー!」
キーに引っ張られて変身した姿のまま出掛けることになってしまった佳子。
そして着いたのは…
「…メルティーマンゴー?」
「店長~!」
キーは慣れた様子で店内へ入って行く。
「あ、待って!」
佳子も慌ててキーに続く。
「やあ、トゥインキーさん!」
カウンターの奥の扉から蝶ネクタイをした男性が出てきた。
「やっほー店長! 新しい女の子を連れてきたよ! アンジェり~なちゃんでしゅ!」
「…あっ、どうも」
まだ状況がつかめないが、その店長と呼ばれている男性に取りあえず挨拶をする佳子。
「こんにちは、アンジェり~なさん…これはこれは…」
店長が佳子を見て息を飲む。
(…ヤダ、わたし場違いかしら?)
少しの不安がよぎる。
(やっぱり変身しててもプロの目は誤摩化せないのかも…)
しかし、店長が次に言った言葉は佳子の予想を裏切るものだった。
「トゥインキーさん、どうやったら毎回こんなに可愛くて魅力的な人見つけられるんですか!」
「えっ?」
キーは自分の二の腕をぽんぽん叩きながら得意げな顔だ。
「トゥインキーさんはうちにしてみたらスカウトマンみたいな存在でね、いやぁレベル高いんですよね、連れてくる女の子みんな。本当にありがたい話です! じゃあさっそく体験入店についてですが…」
店長がカウンターからA4ファイルを取り出して説明を始めようとする。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 体験入店ってわたしそんなつもりで来たんじゃ…」
焦る佳子にキーが耳打ちする。
「佳子しゃん、今の佳子しゃんは42歳の主婦じゃなくて20歳のアンジェり~なでしゅ。せっかくだしここは1回体験してみたらどーでしゅ? 女性ホルモンが刺激されてもっとキレイになれるし、ヘソクリもいっぱい貯まりましゅよ☆」
(刺激……ヘソクリ……)
佳子はガラスに映った自分を見た。
20歳の頃の自分。
人気風俗嬢で、毎日が充実していて、お金もいっぱい稼いで遊んで恋をして……。
キラキラしていたわたし。
「わ、分かった! わたしやるわ!」
佳子は決心した。
「そのイキでしゅ!」
「ありがとうございます! アンジェり~なさん!」
こうして佳子、いやマジカル☆フ~ゾク嬢アンジェり~なの体験入店が決まった。
少しの不安と、それを上回るなにかドキドキする予感が、佳子を包んでいた。
<第2話に続く>
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第2話は11月11日公開です
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