2024/02/11 12:36

デリヘルスタッフのくも
過去と現代を繋ぐ物語
性戦 第11話 ~出会いと別れと幸福と~
少し待つ。
相変わらず沈黙はピクリとも動いてはくれない。
もう一度。
今度は問いかけるように。
『誰かいるのか?』
また間があって
“カサリ”
本当に微かな音。
だがその微か過ぎる音のおかげで正体を見破った。
安心してドアをようやく閉める。
音の正体は玄関からすぐの部屋に住んでいる居候だ。
一ヶ月程前から突然我が家に転がり込んできた。
合鍵も持たないそいつが最初はどこから入ってきたのかは分からなかった。
だが、そいつがどこにだっていつでも出入り出来る事は知っていた。
経験がそう告げている。
その侵入者は足を怪我していた。
普段の俺なら放っておいただろう。
だが過去への贖罪か?
俺は気まぐれでそいつを飼う事にした。
初めて見た時は壁の保護色か何かで薄い灰色をしていた。
今は、ガラス製のケージに敷き詰められた柔らかなウッドチップの茶色と同じ体色だった。
同居をするのに名無しの権兵衛じゃしまりが悪い。
俺はそいつを《やもやん》と呼ぶ事にしていた。
やもやんは生餌を良く食べ、今ではすっかりと元気になっていた。
俺の用心深さとやもやんは共生が出来ないらしい。
―お前ともそろそろお別れだな―
不釣合いなほど大きな爬虫類用のケージからやもやんをそっと取り出す。
別れを惜しんでいるのか、掌から動く気配はない。
俺は掌に尻尾を入れても10センチに満たないニホンヤモリのやもやんを乗せたまま外に出た。
お向かいさんがせっせと育てている家庭菜園に毛の生えた程度の畑に目をやる。
畑の周りには草が茂っている。
小さな草むらまで掌を動かさないようにそっと下ろす。
暫くその場に留まるやもやん
しかし、直ぐに独特な歩行でジャングルへと姿を消した。
冬眠場所を探すのだろう。
ヤモリが家に出ると幸せになれるらしい。
昔読んだ何かの本に書いてあった。
やもやんにしがみつくほど俺は幸福を求めちゃいない。
求めるのは幸せじゃない。
いつまでも借りの返せないお袋への罪悪感が消える事だけを望んでいる。
ふと上を見上げると空が白み始めていた。
To Be Continued・・・
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