2026/06/05 17:01

桜色の制服を脱いだ日
第二話
「前日の夜、彼女から
LINEが来た」
さくらが初出勤を決めたのは、面接から4日後のことだった。
「来週の木曜日、出られます」
短いLINEだった。それだけで十分だった。
* * *
初出勤の前日、夜の11時過ぎにさくらからまたLINEが届いた。
「明日、本当に行けるか不安で眠れません。こんな時間にすみません」
私はスマホを見て、少し笑った。
こういう子は、ちゃんと来る。
逆に「楽しみです!」だけ送ってくる子のほうが、当日ドタキャンすることが多い。不安を正直に言える子は、それだけ真剣に考えている証拠だから。
「眠れなくて当然だよ。私も最初のスタッフはそうだったって言ってた。明日、待ってるね」
既読がついたのは、すぐだった。
* * *
翌朝、さくらは約束の時間より15分早く来た。
この日の服装は、面接のときよりもう少しだけ明るい色のトップス。ベージュのシンプルなもの。少しだけ気合いを入れてきたんだな、とわかった。
「おはようございます……来ました」
声はまだ小さかったけれど、面接のときよりはっきりしていた。
「来ました」という言葉が、なんかよかった。来たんだ、この子。ちゃんと来たんだ。
* * *
出勤前に少し話す時間をとった。
緊張してる?と聞いたら、さくらは少し考えてからこう言った。
「緊張してます。でも……昨日より少しだけ、落ち着いてます」
昨日より少しだけ。
その「少しだけ」がどれだけ大事か、本人はまだわかってないと思う。でも私にはわかった。
人って、動いた分だけ変わる。考えてるだけじゃ何も変わらない。さくらはもう昨日の自分より、ひとつ前に進んでいた。
* * *
さくらが着替えに行ったあと、私はコーヒーを一口飲んだ。
23歳。貯金ゼロ。眠れない夜を越えて、今日ここにいる。
最初の一日が、どんな一日になるかはまだわからない。
ただ——この子は、きっと大丈夫だと思った。
根拠はない。でも長くやってると、なんとなくわかるものがある。
うまく言えないけど、さくらにはそれがあった。
— 続く
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